読書

恋愛小説「傲慢と善良」から感じた、生きるための3つのヒント

2024年3月18日

心豊かに生きるために、月に1冊ずつ小説を読んでいます。

そんな中で、タイトルが非常に気になっていた『傲慢と善良』を読みました。

今回は小説の中で特に印象に残った、生きるための3つのヒントをピックアップしてみました。

「傲慢と善良」 あらすじ

「傲慢と善良」の全体的なあらすじはこんな感じです。

婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。
その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。
生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。
2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な"恋愛"小説。

「人を好きになるってなんなんだろう」
「読み終わったあと、胸に迫るものがあった」
「生きていく中でのあらゆる悩みに答えてくれるような物語」

Amazonより抜粋

生きるための3つのヒント

真美を探す西澤架が、結婚相談所の小野里さんとの対話する場面は秀逸です。

二人のやりとりの中で、現代人が抱える問題があぶり出されていきます。

1.婚活がうまくいく人といかない人の差

「小野里さんの目から見て、婚活がうまくいく人とうまくいかない人の差って、何ですか」

ストーカーの一件とは離れた質問だが、聞きたかった。真美と出会い、婚約して、婚活していた頃のあの出口のない苦しさがだいぶ遠ざかったように感じていた。しかし、小野里を前にして思い出す。

婚活して結婚が決まった、という他人の成功譚を聞いて何度も思った。彼らと自分と何が違うのか。(中略)

「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」

『傲慢と善良』P.129

この言葉を聞いて、架も別れた昔の彼女、アユのことを思い出すのでした。

お互いの相性は悪くないけど、結婚したい女性と、まだ結婚は早いと思っている男性との価値感の違いはうめられない。

結局、このビジョンは人に教えられるようなものではなく、自分自身が経験する中から考えて、見つけ出すものなんだと思います。

また、意思を持たない人について語る小野里さんの言葉も面白いです。

真美さんを含め、親御さんに言われて婚活される方の大半は、結婚などせずに、このままずっと変わりたくない、というのが本音でしょう。三十になれば仕事も安定し、趣味や交友関係もそこそこ固まって、女性も男性も生活がそれなりに自分にとって居心地のいいものになりますから。

けれど、そのまま変わらないことを選択する勇気もない。婚活をしない、独身でいる、ということを選ぶ意思さえないんです。

『傲慢と善良』P.129

意思がないというのは、結局自分自身でまったく決められない人なんですね。

必ずしも結婚することが幸せであるとは限らないですが、あくまで「結婚しない」という選択をした上での話ではないかと強く感じました。

なんとなく無為に時間が過ぎてしまった場合には、いずれにしても後悔が残るのではないかと思う。

2.現代人は「傲慢さと善良さ」が同居している

「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ、と。親に言われるがまま婚活したのであっても、恋愛の好みだけは従順になれない。真美さんもそうだったのではないかしら」

『傲慢と善良』P.135

「当時は恋愛するのにも身分が大きく関係していました。(中略)対して、現代の結婚がうまくいかない理由は『傲慢さと善良さ』にあるような気がするんです。

小野里が言った。さらりとした口調だったが、架の耳に、妙に残るフレーズだった。

「現代の日本は、目に見える差別制度はもうないですけど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、”自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。」

小野里がゆっくりと架を見た。そして、ひとり言のように、どうだっていいように、付け加えた。

「その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれないですね。」

『傲慢と善良』P.135

この辺りがタイトル通りの小説の主題でもあるかと思います。

自分がなく、人の言いなりに、”善良に”生きてきたわりに、他人をあなどり見くだす”傲慢”な態度があることを痛烈に批判しています。

だからこそ、周りとのバランスがとれていないとも言えるのかもしれません。

3.「ピンとこない」の正体とは

ピンとこない、は魔法の言葉だ。それさえあれば決断できるのに、その感覚がないから、どれだけ人に説得されようと、自分で自分に言い聞かそうと、その相手に決められない。(中略)

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です。」

吸い込んだ息をそのまま止めた。小野里を見る。彼女が続けた。

「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は”ピンとこない”と言います。-自分の値段はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段と釣り合わない」

架は言葉もなく小野里を見ていた。

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」

『傲慢と善良』P.137

「ピンとこない」を自分につけている値段だと、実に明瞭に言い当てています。

読んだ方も思い当たる節があるのではないでしょうか。

結局、うまくいかない人ほど自己愛が強すぎて、自分自身の評価が高いために、周りとのギャップがあるのだと言えます。

今日のまとめ

「傲慢と善良」を読んで、人生のヒントとなった場面をまとめてみました。

「選ぶことの本質」について、すごく考えさせられる。単行本の解説で、朝井リョウさんが書いていることがまさにそうです。

この小説はヘビーなのである。それは恋愛や婚活にまつわる紆余曲折が描かれているからーというよりも、何か・誰かを ”選ぶ” とき、 私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写することを主題としているからだ。

『傲慢と善良』

小説は気づきがあって、やはり面白いです。

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