読書

『9月1日の君へ』を読んで、考えたこと、感じたこと

9月1日は若者の自殺が最も多い日と言われています。

一人でも多くの命を守るための、自殺予防メッセージ集として、『9月1日の君へ』という本があります。

今回は、その本を読んで印象に残ったメッセージをまとめながら、考えたことをつづっていきます。

1.悩む子供、悩める大人の立場として

lead the self

子供の自殺防止をテーマに書かれた本ですが、大人としても同じ悩みを持つこともあると感じています。

まずは、当事者としてどう受け入れるべきかをまとめてみました。

色んな選択肢を持とう

今、思えば、人が死にたいと思うのは、端的に言えば「視野狭窄(しやきょうさく)」、つまり視野がものすごく狭くなって、それしか考えられない状態です。自分も捨てたもんじゃない、ということが全く思いもつかない状態なのです。

「9月1日の君へ」p204(加藤有希子)

狭い世界に囚われると、いくつかの場面でうまくいかなくなった時に、”自分には価値がないのではないか”との感情が強くなってくるように思います。

人が最も苦しいのは、「自分で自分の存在を疑う状況に追い込まれたとき」です。

そうならないためにも、普段から広い視野を持つことを意識しておきたいものです。

自分に合わなければ環境を変えればいいのです。自分の居場所がここにしかないと思うと、死ぬしかないという考えになってしまうけど、居場所はいろいろあるし、何なら国から離れてもいい。無限にあるんです。(中略)

まず、別の場所があるということに気づくことからだと思います。

「9月1日の君へ」p22(山田玲司)

今いる場所がすべてではない。ましてや、自分が悪いわけではない。

日常の生活とは違う場所(サードプレイス)を持つ

視野を狭くしないためにも、大人であれば、普段の生活(職場や自宅)ではない場所、サードプレイスを持つことが有効です。

違う立場としての生き方があれば、同じ状況に置かれてもいろんな捉え方ができるようになります。

また、例えひとつの状況がうまくいかなくても、他の場所が心の救いになることもあるでしょう。

そのような意味で、サードプレイスは、まさに「心の緩衝地帯」となります。

同様に、子どもの場合でも、学校以外の選択肢を持つ必要があると思います。

それは、スポーツなど部活動であったり、習い事の集まりが該当するでしょう。また、リアル以外でもSNSでのつながりなどが挙げられるかもしれません。

生きていることと、生きていないことは紙一重

人間というのは、安全な平地を順風満帆に歩いていると思っていたのに、ふとした瞬間に、実際は断崖絶壁を歩いていたんだと気がつくということがあります。そのとき、ふうっと気持ちのよい風が吹いてきて、落ちていってしまうことがあるような気がします。(中略)

三人に一人ほどは自殺したいと思った経験があるそうです。「しかし思うことと実行するというのは違う、そこに大きな隔たりがあるんだ」と聞きました。その隔たりを越えてしますかどうかは、どんな偶然が重なっているかによって変わってきてします。まさに紙一重ですね。

「9月1日の君へ」p226(安藤寿康)

本書の中で、強いメッセージがありましたが、この文章は特に心に残りました。

普段は落ち着いて過ごしても、ふとした時に危機的状況に追い込まれていることに気づくことがあります。

まさに、断崖絶壁を歩いていたんだと感じる瞬間です。

誰でも時々この状況にはなるんだ、苦しい時間も来ることがあるんだということを覚えておくことは大事です。

悩んでいるは、あなた一人ではない。

もしあなたが、いじめを受けているなら、苦しくても、親に打ち明けよう。この文章のコピーをみせよう。親を味方につけよう。そして、学校に行かないですむ道を、いっしょに考えよう。(中略)

あなたみたいに苦しんでいるひとは、とっても大勢いる。あなたは決してひとりぼっちじゃない。

「9月1日の君へ」p98(橋爪大三郎)

悩んでいる時にはなかなか人に相談できなくなります。深刻な話の場合にはなおさらです。

そんな時でも、「悩みをかかえるのは、決してあなたひとりではない」ということを知っておきましょう。

同様のメッセージは、以前の大河ドラマのセリフにもなっていました。

すごく大切な言葉だと思っているので、私は時々読み返しています。

対処策① 体を動かす、体を休める

命というのは、肉体の精神が磨かれて、初めて輝くものです。ほとんど見えないような緩やかな速度で、私の魂は徐々に回復していきました。(中略)

しかし今、振り返ると、母が夜中のドッグランに連れだってくれたことは、私を命の道に引き戻すための鍵だったと思います。私は精神よりも肉体を先に回復させたのです。

「9月1日の君へ」p205(加藤有希子)

心身ともに疲れ切った状態にあると、ぼんやりと逃げ出したくなるのは想像できます。

そんなときには、体を動かしたり、休めたりすることは大切です。

他たっぷりと寝ることで、蓄積された疲労はみるみる回復することもあるでしょう。

自分自身が気落ちしている時の状況を、あらかじめ把握しておくことも非常に大切です。

対処策② 心の持ち方、あり方

・悩みをすべて書き出す

もうひとつおすすめなのが、文章を書くことだ。

ノートの切れ端に、絶対人に見せないつもりで、何でもいいから思ったこと、頭から出てきたことをすべて書く。誰にもみせないのだから、人の悪口であっても構わない。それをすべて頭の中から出して、書き出してします。

「9月1日の君へ」p66(小林康夫)

悩みを解決する方法として、頭の中のものをすべて書き出すことはよく知られています。

人になかなか相談できないことでも、自分の頭から外に出すことでモヤモヤが整理されて、すっきりとすることもあります。

・不幸を受け入れる

私は人生は楽しいとか、ポジティブに考えろとか、そういう気休めのことは言いません。ただ自分のものであり、他人のものであれ、今の不幸をまずは受け容れてみてください。幸せじゃなくても、悲しくても、汚くても、かっこわるくても、それでいいんです。安心してください、それが永遠に続くと言うことはありません。

私は不幸に再び直面して、「不幸」は決して自分の「外側」にあるものではなく、「内側」のものとして受け入れるようになったのです。(中略)

「9月1日の君へ」p208(加藤有希子)

不幸を受け入れることも、考えの一つとしてあります。

良い状況でないこともシンプルに受け入れる。このように考えることで光が見えることもあるでしょう。

・人間関係に執着しない

極論すれば、「悩みとはすべて人間関係から生じるもの」と言えると思います。

その上で、人との関係に「執着しない」「期待しない」と思うことは、自分自身の心を軽くすることにもつながります。

相手の気持ちを変えることは簡単ではありません。コントロールできないものを変えようとして、一喜一憂するのは賢明ではありません。

相手がどう思っているかについて、それほど深く考える必要はないです。

決して自ら死を選んではいけない

死の誘惑に駆られることは全く正当なことで、間違っていない。しかし、実行するのは間違っている。

自殺しようと思う心は間違っているわけではないのだ。それは人間が10歳から20歳ほどのときに必ずどこかでふれたり、かすったりするような、誰でも考えることだ。だからそう考えることは間違いではない。しかしそれを本当にやるのは間違っている。

「9月1日の君へ」p53(小林康夫)

哲学者の小林康夫さんは、この本の中で、「死は誘惑だ」というメッセージを語っています。

「自殺について考えてはいけない」と言っているのではないことが、印象的でした。

むしろ、自殺について考えるの自然なことだと伝えながら、実行するのは違うのだと明言しています。

自分の命を奪うのは、他人の命を奪うのと同じ。神に対する罪である。キリスト教では、命より大事なもの(神)がある、と考えるのだ。この考え方は、頭のすみに入れておくとよい。

「9月1日の君へ」p95(橋爪大三郎)

この本では、自ら死を選んではいけないことを数多く伝えています。

2.親の目線、社会の目線として

当事者としての目線だけでなく、子どもを持つ親の立場としても考えるべき点は多かったように思います。

ここからは、親の目線として大切だと感じた点をつづりたいと思います。

SOSを受け止める

まず周りの人には、学校に行きたくないという気持ちを本人が訴えたら、それは命に係わるSOSだと思って必ず受け止めてほしいです。「そんなこといってどうするんだ」「もう一日だけ頑張ってみよう」というのではなく、きちんとそのSOSを受け止めて、休ませてほしい。

「9月1日の君へ」p82(石井しこう)

子供の立場から重い相談はなかなかしずらいものです。

勇気を出して、本人が訴えたなら、きちんと受け止めてあげるべきだと理解しておくこと。

親の言動でさらに追い込むことがないようにすることだけはないように、本当に気をつけなければなりません。

親子間の「心の結びつき」

人間にとってもっとも大切なのは、親と子や夫婦などのあいだにある、「心の結びつき」です。たとえば、中学生の子が「死にたい」と言ったときに「あなたが死んだら、私はどうしようもなくなるほど悲しい。あなたが勝手に死んでしまったら、お父さんもどうしようもなくなるし、弟もそうなんだ。そこだけは考えてほしい」と「心の絆」に訴えると、九割方は自殺を思いとどまるというのが臨床医としての実感です。

「9月1日の君へ」p117(夏目誠)

親が、子供の「心の拠り所」として存在していることは、生きていく上では大きな意味を持ちます。

自死について考えることはあっても、実行せず引き留める力になるのは、その親子の「心の結びつき」です。

子を持つ親は、”子育ては大事業”であることを再認識しよう

臨床心理学者の河合隼雄さんは、著書『こころの処方箋』の中で、「家族関係の仕事は大事業である」と説いています。

「社会の変化が激しい時に、両親は子どもに対して優位を保つことは難しく、子どもが親の言うことに従っていきていることはない」と言い、さらには、「物が豊かになったために子育てがさらに難しくなっている」と繰り返しのべています。

理解してもいないのに、どうして理解のあるようなふりをするのだろう。それは自分の生き方に自信がないことや、自分の道を歩んでゆく孤独に耐えられないことをごまかすためにそのような態度をとるのではなかろうか。

(中略)

子どもを真に理解することは、大変素晴らしいことである。しかし、真の理解などということは、ほとんど不可能に近いほど難しいという自覚が必要である。そんな難しいことの真似ごとをやるよりは、まず自分がしっかりと生きることを考える方が得策のように思える

引用:「心の処方箋」河合隼雄

今日のまとめ

「9月1日の君へ」を読んで、印象に残ったこと、それについて考えたことをまとめました。

死について考えることはあっても、「自ら死を選んではいけない」と多くの人がメッセージを残しています。

色んな考え方を知ることは、よりよく生きるヒントになると信じています。

-読書

© 2024 大人の再学 Powered by AFFINGER5