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「生き心地のよい町~この自殺率の低さには理由がある」を読んで、印象に残ったこと

知人がSNSでおススメしていた、「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある」を読みました。

この本は、全国的に見ても自殺率の低かった徳島県の「海部町」に注目し、その地域ではなぜ自殺が起こりにくいのかの要因を探ったものです。

今回は、この本で挙げられた5つの要因と、その他印象に残った点をいくつかまとめました。

「生き心地のよい町~この自殺率の低さには理由がある」を読んで

日本人の自殺の動機で多いのが、「病苦・健康問題」、ついで「生活苦・経済問題」があります。この二つで70%を占めているとのこと。

一見、地域格差はなさそうですが、実は自殺率が低い地域もあるようです。

全国的に見ても自殺率の低かった「海部町」での自殺を防いでいる要因(自殺予防因子)が書かれています。

5つの自殺予防因子

結論から言うと、海部町では次の5つの特徴があるようです。

  1. いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
  2. 人物本位主義をつらぬく
  3. どうせ自分なんて、と考えない
  4. 「病」は市に出せ
  5. ゆるやかにつながる

1.いろんな人がいてもよい、いろんな人がいた方がいい

近年では多様性がよく言われるので、この因子は思い当たるところがあるでしょう。

「赤い羽根募金が集まらない」というエピソードが紹介されている。多くの地域では、周りと人と同額程度を募金することが多いのに対して、海部町では他人と足並みをそろえることにまったく重きをおいておらず、個々の判断によるためである。

2.人物本位主義をつらぬく

この人物本位主義とは、職業上の地位や学歴、家柄や財産などにとらわれることなく、その人の問題解決能力や人柄を見て評価することをしめていします。

3.どうせ自分なんて、と考えない

海部町では、主体的に政治に参画する人が多い印象があり、自分たちが暮らす世界を自分たちの手によって良くしようという基本姿勢があるように思える。

このことは、心理学の分野では「自己効力感」とよばれ、人間が行動する際の意欲や動機づけに大きく作用する感覚であると知られている。

4.「病」は市に出せ

悩みやトラブルを隠して耐えるよりも、思いってさらけ出せば、妙案を授けてくれる人が出てくるかもしれない。だから、取返しのつかない事態に至る前に周囲に相談せよという教えなのである。

5.ゆるやかにつながる

海部町では物理的密着度が極めて高いコミニュティであり、好むと好まざるにかかわらず住民同士の接触頻度は高い。(中略)

その一方で、隣人間のつきあいに粘着質な印象はない。基本は放任主義であい、必要があれば過不足なく援助するというような、どちらかといえば淡白なコミュニケーションの様子がうかがえるのである。

出典:「生き心地の良い町」p83

よりゆるやかな関係が維持されているコミュニティのほうが、弱音を吐くという行為が促されやすいということになる。

明日から何ができるか

幸せのこだわりを捨てる

海部町の調査で興味深かったのは、「幸せでも不幸せでもない」人がもっとも多かったことです。

「不幸でないこと」に、より重要な意味があると感じる。「大変幸福というわけではないかもしれないが、決して不幸ではない」という弾力性の高い範囲設定があり、その範囲からはみ出る人、つまり極端に不幸をつくらないようにしてるようにも見えるのです。

この本で取り上げられてはいないですが、高名な心理学者であるセリグマンが提唱した、ネガティブ思考の「3つのP」というものがあります。

①個人化(Personalization)・・・「どうせ自分なんか」という言うように、必要以上に個人の生にしてしまうこと。
②普遍化(Pervasiveness)・・・一度起きた良くないことを、他のことにも広げ、普遍的に捉えてしますこと。
③永続化(Permanence)・・・一度起きたネガティブな出来事が、ずっと続くと考えること。

海部町のコミニュティは、この「3つのP」を和らげる効果があるのでしょう。

「野暮ラベル」の効用

海部町では、個人の自由を侵し、なんらかの圧力を行使して従属させようとする行為を食い止めたいと考えた。そのことが、彼らの目指すコミニュティづくりにはそぐわなかったのであろう。次にとった行動が、そうした行動に「野暮ラベル」を張ることだったのではないか。野暮ラベルは、いわば魔物を封印する御札のようなものである。

出典:「生き心地の良い町」p195

不適切と思われる行為に「野暮ラベル」を張っておく。周囲から野暮だと思われることがいかに不名誉なことかの観念をうえつけ、コミニュティの共通認識にしていく。

自殺した人を決して責めない

自殺へ傾いていく人をひとりでも減らしたい。しかし私は、自殺した人を決して責めない。日本では毎年三万人の人々が、自分の意思や力だけではどうしようもない何らかの苦難に押しひしがれて、自殺へと追い詰めれていく。その過程を知り原因を探ることで、対策に役立てることができるよう、私はこのような調査や提言を続けている。自殺した「人」を、責めているのではない。

出典:「生き心地の良い町」p202

今日のまとめ

この本はSNSで知人がおススメしていたので読みました。たまたま近しい人に不幸があって色々と考えさせられました。

ひとまずメモの状態ですが、見返すこともがあると思うので投稿しました。

自殺は一部の人の特殊なケースではなく、身近な社会問題と考えるべきである。自殺危険因子の多くは日常生活に潜み、人が生きていく上で誰もが遭遇しうる事柄だ。しかもそれらは、いかなる手を尽くしたとしても、この世から完全に除去することができない。

出典:「生き心地の良い町」p187

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著者の岡さんが全体をわかりやすくまとめています。

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