読書

直木賞受賞作「熱源」はやはり熱い物語だった

2021年2月7日

人が生きるのは、熱があるからだ。

史実にもとづきながら、交差する人々の想いがありありと感じられ、こちらも熱くなった。

今回は、直木賞受賞作「熱源」のあらすじと、読書後の感想をまとめました。

第162回直木賞受賞作「熱源」

画像:戸田書店静岡本店のTwitter

戸田書店静岡静岡本店の閉店時の心温まるエピソード(詳細はこちら)を聞いて、「熱源」を読みました。

胸が熱くなる作品を読めたことに感謝。

熱源 あらすじ

明治時代の樺太が主な舞台。

樺太出身のアイヌである「ヤヨマネクフ」は、故郷を奪われ北海道に強制移住させられた。
加えて、天然痘やコレラの流行が原因で妻や多くの友人たちも失ってしまう。
その後、ヤヨマネクフは、後に山辺安之助と名を変え、再び樺太の地に戻ろうと心に決めた。

その一方、リトアニアに生まれたブロニスワフ・ピウスツキ。
ロシアの同化政策により、母語のポーランド語を話すことすら認められていない。
やがて、ロシア皇帝の暗殺を謀った罪でサハリン(樺太)に流刑となる。

日本人にされそうになった、アイヌのヤヨマネクフ。
ロシア人にされそうになった、ポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキ。
ともに故郷を奪われ、文明を強要され、そしてアイデンティティを揺るがされた二人。

樺太の地で出会った二人は、時代に翻弄されながらも、自らが守り継ぎたい「熱」を追い求めていく。

明治維新後における樺太の厳しい風土やアイヌの風俗を鮮やかに描き出した歴史冒険小説。

史実をもとにしたフィクション

金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助(Wikipedia参照)の人生をベースに描かれている。

史実に基づいたところも多く、大隈重信や二葉亭四迷など歴史上の人物も多く登場し、スケール感が壮大である。

もちろん、もう一人の主人公、ブロニスワフ・ピウスツキ(Wikipedia参照)も実在する人物である。

作家・川越宗一さんの想い

私とほぼ同世代の言葉は考えるところがあります。

インタビュー記事 → 川越宗一さん『熱源』

多数派の人間が普通だと思っていることへの反感も、小説を書くモチベーション。僕らがのうのうと暮らしてるから、少数派の人の苦難に思いが至らない、やさしくない社会が出来上がっていくんじゃないか、という気がします

https://book.asahi.com/article/12727947

読後感想(※ネタバレ注意)

※ここからは、読書メモになるので、完全にネタバレになります。

小説の中で紡ぎだされた言葉たち

寄宿学校を作る前の、ヤヨマネクフが千徳太郎治やブロニスワフとのやりとりの言葉。

理不尽の中で自分を守り、保つ力を与えるのが教育だ

「熱源」p194

文明に潰されて滅びる、あるいは呑まれて忘れる。どちらの時の訪れしか、自分たちにはできないのか。別の道は残されていないのか。想像した将来に凍えるような感覚を抱いた。

ここから、ヤヨマネクフに自分がアイヌを守っていかねばならぬという信念が芽生えたのでした。

知る世界の広さは、人生の可能性の広さだ

「熱源」p200

本の中では会話の中にさらっと出てきたものですが、この言葉もかなり好きです。

第4章 ブロニスワフの大隈伯爵とのやりとりの中での言葉

「弱きは食われる。競争のみがその生存手段である。そのような摂理こそが人間を滅ぼすのです。だから私は人として、摂理と戦います。人の世界の摂理であれば、人が変えられる。人知を超えた先の摂理なら、文明が我らの手をそこまで伸ばしてくれるでしょう。」

「熱源」p326

第4章 ヤヨマネクフの大隈伯爵とのやりとりの中での言葉

「アイヌって言葉は、人って意味なんですよ」
強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補いあって。生まれたのだから、生きていいはずだ。

「熱源」p375

アイヌの伝統楽器トンコリ

熱源を読んだ後に聞くと、美しい音色に自然と涙があふれてきます。

アイヌのタトゥー

国立アイヌ民族博物館

まさに、作家の川越さんがこの本を書く「熱源」にもなった場所。

国立アイヌ民族博物館

Twitterでもこんなコメントがあります。

みんなの読感

アイヌ民族を資料から浮かび上がらせる作者の力量

史実の裏に生命力とユーモアを吹き込む作者の手腕が分かり実在人物総動員でアイヌ民族を史料の中から浮かび上がらせる海外エンタメのような力業に感嘆する。多様性を豊かな心で認め合う登場人物たちが現代で素直に対峙できない我々に眩しく映る。

https://bookmeter.com/reviews/95776212

様々な視点によって表現が変わる

小説の工夫として作者は、視点人物がポーランド人の時、「畳」を「草を分厚く編んだ方形の敷物」と書き、アイヌ人の時に「天皇陛下」にモシリカムイとルビを振る。各人の立場によって世界が変わって見えることを丁寧に示したこうした細かい遊びも奥が深い。

「熱源」書評 アイヌの人生軸に世界を見渡す(いとうせいこう)

今日のまとめ

直木賞受賞作「熱源」についてあらすじと読書後の感想をまとめました。

出だしは、登場人物の名前にもカタカナが多く、人物の関係性や目まぐるしく変わる環境をとらえるのが難しいです。

しかし、途中からのスケール感と人々の思いが交錯していく様がありありと伝わり、物語の壮大さと人々の熱さに圧倒されました。

心が熱くなる素晴らしい作品でした。

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